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巨大な壁を舞台に人間ドラマ [山の図書館・映画館]

巨大な壁を舞台に人間ドラマ


「大岩壁」(笹本稜平著)

大岩壁.jpg

 ナンガ・パルバット。パキスタン北部にあり、日本語では「裸の山」。標高8125㍍のうち、谷底から山頂まで標高差5200㍍のほとんどは垂直に近い岩壁で、吹き付ける強風のためほとんど雪がつかないという。山頂を目指した登山家のうち5人に1人が死亡するという危険な山で「人食い山」とも呼ばれる。冬季登頂が果たされていない8000㍍峰はK2と、このナンガ・パルバットだけである。1970年、ラインホルト・メスナーがルパール壁から登頂を試みたが途中でギブアップ。この時、弟を失った。メスナーは8年後にディアミール壁から単独で登頂した。

 この山を舞台に、メスナーと同じルパール壁からの冬季登頂を目指す男たちを描いたエンターテインメント小説が、この「大岩壁」である。

 ディアミール壁上部で立原、木塚、倉本の3人は急速に崩れた天候と急峻な岩壁に進退窮まっていた。停滞するうち高所障害が出始めた倉本をみて、2人は撤退を決断する。しかし、懸垂下降のさなか、倉本は音もなくガスの向こうに消えた…。

 5年後、立原と木塚は、アルパインスタイルでの再挑戦を計画する。目指すのは冬季初登頂だ。そんな折、未知の男から連絡がある。倉本の弟と名乗り、キャリアもつかめない彼をメンバーに加えるべきか。迷った末に、パーティーは3人で構成される。ベースキャンプを置いたルパール壁下部には、先着のロシア人パーティーがいた。やはりメスナー・ルートを狙うという。それなら、別ルートを登ればいいと倉本は主張する。ロシア隊には何か魂胆がありそうだと疑心暗鬼になった折り、倉本は単独でルパール壁に取り付いてしまった。ロシア隊より先に登頂を果たしたい、そんな思いからだろうか…。

 こうしたストーリー展開の合間に、硬質な文体による山々の描写が挟み込まれる。

 ――ルパール壁はいまは斜め横からの日射しを受けて複雑な陰影を浮かび上がらせ、純白に輝く氷雪と岩肌のコントラストが天に駆け上る巨大な龍を連想させる。

 ――標高四〇〇〇㍍に達したあたりで夜が明け始めた。

東にはK2を筆頭に、ブロードピーク、ガッシャーブルム山群、チョゴリザ、マッシャーブルムなどカラコルムを代表する巨峰群がそそり立ち、曙光を受けた山肌が燃えるような深紅に染まっている。

 こうしたパノラマを直に見たい。しかし、パキスタン北部はいま、世界的にも最も治安の悪いところとして知られる。とりあえずは、こうした著作によって楽しむしか方法はないであろう。ラインホルト・メスナーが著した「裸の山 ナンガ・パルバート」と合わせて読めば、興はさらに増す。

「大岩壁」は文芸春秋刊、1600円(税別)。初版第1刷は2016525日。「裸の山 ナンガ・パルバート」は山と渓谷社、1800円(税別)。初版第1刷は20101020日。

大岩壁

大岩壁

  • 作者: 笹本 稜平
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2016/05/21
  • メディア: 単行本

裸の山 ナンガ・パルバート

裸の山 ナンガ・パルバート

  • 作者: ラインホルト・メスナー
  • 出版社/メーカー: 山と渓谷社
  • 発売日: 2010/10/08
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

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